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アメリカ旅行の思い出(2014年9月2日〜11月28日)

古人曰く勝って兜の緒を締めよと

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セオドア・ルーズベルトの像(アメリカ自然史博物館「The American Museum of Natural History」正門

アメリカ自然史博物館(The American Museum of Natural History)の正面玄関前に、とてつもなく大きな像がある。「棍棒外交」、「日露戦争の仲介」、そしてテディ・ベアの名前の由来にもなった、「テディ」こと、「セオドア・ルーズベルト元合衆国大統領」の像である
歴史なんて知っててもちっとも偉くない。「歴史の授業なんて全部寝てた」、「漫画読んでた」という人のためにことわっておくと、太平洋戦争の際に日本と闘った「フランクリン・ルーズベルト」とは別人です(血縁関係はあるみたい)。

聞けばよかったのだが、この博物館と、当人の関係はよく分からない。ただ、セオドア・ルーズベルトは過去にニューヨーク州知事を務めた人物で、ニューヨーカーには今でも人気があるらしい。アメリカ自然史博物館最寄りの駅構内では、セオドア・ルーズベルトと一緒に記念撮影ができる。

ところで、僕の話は飽きることなく「坂の上の雲」につながっていく。

日露戦争終結ののち、日本海海戦でロシア艦隊を圧倒した日本の連合艦隊は、東郷平八郎司令長官のもと、その編成を解く解散式を行った。ここで読み上げられた「連合艦隊解散の辞」が、名文として名高い。あの快男児、秋山真之がつくったといわれる。僕の好きな部分を、少しこの場で紹介。

神明は唯(たゞ) 平素の鍛錬に力(つと)め戦はずして既に勝てる者に勝利の榮(えい)冠(くわん)を授くると同時に、一勝に満足し治平に安んずる者より直(たゞち)に之を 褫(うば)ふ。
古人曰(いは)く勝って兜の緒を締めよと。

昔の日本語の調子はやはりリズムが良い。

当時、これを読んだテディことセオドア・ルーズベルトは大いに感激し、直ちに英語に翻訳、合衆国のソルジャーたちに教示させた。上で示した部分の英語訳がこちら。

Heaven gives the crown of victory to those only who by habitual preparation win without fighting, and at the same time forthwith deprives of that crown those who, content with one success, give themselves up to the ease of peace. The ancients well said:

"Tighten your helmet strings in the hour of victory."

元が良いからか、こちらもなかなか悪くない。

1867年の明治維新によってなんとかハリボテの国民国家をつくりあげた日本が、当時一生懸命行った仕事の一つが、「外国語の書物を日本語に翻訳すること」であった。その後たった数十年で、今度は「日本語を外国語に翻訳させる」ところまで持って行った。この事実には純粋に感動してしまう。

面白いことに(人によるところではあるが......)、話はここで終わらない。

秋山真之は名文家で、このような見事に人を感動させる軍事的文章をつくったとされる。もう一つ例を上げるとすれば、それは日本海海戦で日本の連合艦隊が出撃の際に発したこの文章である。

「本日天気晴朗ナレドモ波高シ」

司馬遼太郎は、こういった文章こそ昭和の戦争で日本を誤らせた一つの原因だと言っている(あくまで小説の中で)。確かにこの文章は文学的感覚からいえば名文なのかもしれない。ただ、戦争に文学はいらない。必要なことは状況を正確に、素早く伝えること。秋山のこういった文章から、例えばただの全滅を全滅と言わず、美しく玉が砕けるように「玉砕」と呼んで、あたかも素晴らしいことかのように賞賛するようになったのだと。

こんなこと学者は絶対に言わないし、というか言えないのだろうけれども(こういう点を考えると、学者って本当に難しい、苦しい世界だなと思う)、実際には少しは影響があったんだと思う。

欧米から笑われ、欧米に見習い、少しは欧米に認められるようになり、かと思うと今度は欧米に挑み(意見が分かれるところではある)、欧米に徹底的に破壊された国。

果たして今は......? これからは......?