Soul-Searching Travel !!

アメリカ旅行の思い出(2014年9月2日〜11月28日)

もし仮にそれが簡単に見つけられるものだとすれば、それは見つけるに値しないものさ。

f:id:RY1201:20141025082436j:plain
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』(ケビンとおじいちゃんのイメージ)

ハートフォード到着から数えて3時間、バスから降り、歩き始めてから既に2時間ほどが経った。降りしきる雨の中、身体の疲労とともに無駄な思考が頭を駆け巡る。
ハートフォードになんかくるんじゃなかったな......。このまま『どこでもドア』で東京の自宅まで帰りたい。東京に帰ったら何を食べようか?とりあえずシャワーを浴びて、湯船にゆっくりつかり、カレーライスを食べて映画を見ながら寝る!」
......こんなことを考えても意味が無い。もう一度、あのスローガンを脳内で再生する。
「♪モンティ家(んち)へ行こう!モンティ家(んち)へ行こう!」

Googleマップで現在地を確認する。Googleマップの素晴らしいところは、Wi-Fiが通じていなくともGPSが機能し、現在地を教えてくれるところ。そして、いま自分が東西南北どちらに向いているかも、ほぼ狂いなく教えてくれる。以前、Googleマップに対して「ハイテクすぎて風情が無い」という評価を下した。前言撤回。地面に這いつくばってGoogle様の革靴の裏を舐め回すから許して欲しい。NSAのスパイ活動に協力してるからって構わない。僕をモンティ家(んち)まで連れて行ってくれ。

Googleマップを確認すると、さっきのヤバイおっちゃんのせいで、モンティ家(んち)からだいぶ離れたところまで来てしまったようだ。戻らなくてはならない。

雨の中のたり、のたりと歩き始める。お腹が減っている。足が棒のようだ。そして少し肌寒い。それでも僕は、歩くしか無い。


しばらくすると、また住民を発見した。今度はおじいちゃんと孫の2人組だ。見かけは善良に見える。しかし、これまでの経験から、あまり「人に道を尋ねる」というアクションに期待はできない。それでもやっぱり道を尋ねてしまう。

「すみません。いま『603』番の家を探しているんですが......」
おじいちゃんが答える。
「すまないね。わたしはこの辺の者じゃないんだよ。ちょっと分からないな......」
「そうですか......」
高校時代の文化祭で培った演技力をもって、とても残念そうな顔をつくり、こう続けた。
「実はもうかれこれ2時間ほど、この辺りを探してるんです。日本から来たんですが、道が分からなくて......」
「おお......そう言われても、わたしはよそ者だからね......ちょっと待ってくれるかい?娘に電話してみるよ。」
希望の光が、ドアの隙間から少し漏れている。おじいちゃんの隣にいる8歳くらいの元気な孫が、おじいちゃんの手を引っ張りながら飛び跳ねている。
「おい、いまちょうど日本から来てる旅人に道を尋ねられてるんだ。XX通りの『603』番の家ってどこか分かるかい?おぉ......そうか、分からないか。」


開きかけたドアが、バタンと音を立てながら閉じられる。孫がおじいちゃんの手を引っ張りつつ、元気に叫ぶ。
「早く空港に行こうよ!」
「ケビン、ちょっと待ってくれ。」
おじいちゃんが答える。

絶望に暮れているところで、おじいちゃんが車の方へ歩み出した。
「日本人よ、車に乗ってくれ。」

一瞬、何のことだか理解できなかった。どうやら、車で一緒に『603』番の家を探してくれるようだ。
「ありがとうございます!」
今度は演技ではなく、心の底から感謝の言葉を述べた。孫が叫ぶ。
「ねぇねぇ、どこへ行くの?空港に行こうよ!」
「ケビン、すぐに空港に行くから待っていてくれ。」
ゴメンね、ケビン。

車でモンティ家(んち)周辺をゆっくりと徘徊する。一つ一つの家の番号を、丹念にチェックしていく。
「505, 504, 503......この辺りじゃ無いか......」
後ろの席では、ケビンが叫び続ける。
「お兄さん、どこから来たの!?僕たちは今から空港に行くんだよ!」
「ケビン、2分だけ静かにしてくれるか?」
おじいちゃんが、こう答える。なんだか、映画で見たような光景。

一度ピシャリと閉められたドアの扉が、再度ゆっくりと開き始める。少しずつ、また希望の光が隙間から漏れ始める。
「おお、この辺が600番台だよ。609, 608, 607, .......」
希望の光で、眩しい。
「さあ、見つけたぞ!ここが『603』番だ!」

この瞬間の喜びは、今でも忘れられない。興奮と感動で、涙が出そうだった。喜々として車から飛び降りる。去り際におじいちゃんにこう言った。
「アメリカ人はとても親切だってこと、日本に帰ってもずっと忘れないからね!」

そのまま『603』のプレートをつけた建物へ向かう。ベルが無い。仕方ないから玄関の扉を叩く。とにかく早く、家に入りたい。

おじいちゃんも車から降りてきて、扉を激しく殴打している僕にこう言った。
「おい、それはガレージだ。」
おじいちゃんが爆笑している。僕も爆笑する。


そんなこんなでモンティ家(んち)に到着。ベルを鳴らすと、モンティが玄関まで迎えに来てくれた。
「遅かったね!何かあったんじゃ無いかと心配だったよ。メールで連絡したのに......」
Wi-Fiを持ってないんです......でも心の優しい方が車でここまで連れて来てくれました。」
「大変だったね。バックパックを持ってあげるから、早く家にあがりなさい。」

最後におじいちゃんとケビンにもう一度感謝の気持ちを伝え、長い行軍が幕を閉じた。

さあ、お待ちかねのモンティ家(んち)だ!