Soul-Searching Travel !!

アメリカ旅行の思い出(2014年9月2日〜11月28日)

デス・マーチ

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本旅3度目の長距離バス。もうすっかり慣れっこだ
午前9時にポートランドを出発したバスはちょうどお昼頃、ボストンに到着。ボストンで中華料理を食べてから再度バスに乗り込む。

午後4時、ハートフォードに到着。

「あんまり良くない街ね。犯罪の多いところよ。」
メルセデスの言葉が脳内で再生される。
「モンティ家(んち)に行こう!」
こちらのカセットテープで、メルセデスネガティブ・キャンペーンを吹き飛ばす。

バスから外へ飛び出すと、あいにくの雨。
ポートランドの時と同じだが、「見知らぬ土地」と「雨」の組み合わせは、ひ弱な旅人をブルーにするのに充分すぎるほどの効果を持つ。

長距離バスから降りた後は、もはやルーティン。
Googleマップを起動してair bnbの宿のアドレスを入力、後は全てGoogleマップが教えてくれる。

うわっ......モンティ家(んち)ってここから2時間弱もかかるのか......
部屋の広さや美しさに惹かれてばかりで、ロケーションという最も重要な要素を見落とした自分を情けなく思う。次からは、気をつけよう......

靴紐をキュッと閉め、500円の折り畳み傘を不器用に開いて、宿へ向かう。
「モンティ家(んち)に行こう!」自分を鼓舞する。

約1時間かけて、モンティ家最寄りのバス停に到着。Googleマップが僕に出した次の指示は、モンティの家まで、45分の歩行。

雨の中、歩き始める。道を歩いている人など一人も見当たらない。車はさっきから何度も僕の側を通り過ぎて行く。その度に、道路脇の水たまりの泥水を、か弱い歩行者の方へ飛ばしてくる。幅が広く、どこまでも続いていくアメリカの道路、両脇は木が生い茂る。そんななか、一人黙々と歩く寂しさを想像していただけるだろうか?

歩いていると、ふと気がつく。ドライバーが僕のすぐ側を通るごとに、僕のことを訝しげに眺める。
ハートフォードという特に面白みもないこの街の、しかも郊外で、大きなバックパックを背負って一人雨の中のそりのそり歩くアジア人。確かに、怪しい。

しかしそんなことはどうだっていい。モンティ家に行けば最高のアコモデーションが待っている!
「モンティ家(んち)に行こう!」
疲れと羞恥心を吹き飛ばす。

さて、45分の行軍の末、モンティ家「周辺」に到着。
現場は集落のようになっていて(しかもかなり広い!)、この建物群のなかからモンティの家を見つけ出さなくてはならない。モンティの家の番号は「603」。

身体がかなり疲労している。しかも雨。早くモンティ家(んち)でシャワーを浴び、ベッドに飛び込みたい。もう少しだ。最後のひと踏ん張り。

「1010, 1009, 1008, ...... 806, 805, 804, ...... 509, 508, 507 ......!? 違う!違う!戻らなきゃ。」
方向を変える。
「806, 805, 804, ...... , 709, 708, 707, ...... 303, 302......!? おかしいな......」
600番台が見当たらない。

こういう時は、人に聞くのが一番早い。幸運にも、車に乗り込もうとしている中年夫婦を発見。
「『603』ってどこだか分かりますか?」
「『603』...... あなた、分かる?」「分からないな。」
なんで近所のことを知らないんだ。答えるのが面倒なんだろうか。ひとまず、協力的でなさそうだったので、別の人を当たる。

土曜日の夕方、雨。人が全然外にいない。しょうがないから、人が中にいそうな家のベルを鳴らす。
「突然ですみません。『603』番の家はどこでしょうか?」
「おお、『603』か。たしか『600』番台は......あっちの方だと思う。すまんな。確かじゃないんだ。あっちじゃなかったら、こっちを探してみてくれ。」

「あっち」の方を当たってみる。その道すがら、遠くから声がかかる。
「おーい!お前、どうしたんだ?」
白人のおっちゃんが呼んでいる。おっちゃんの方へ向かう。

「『603』番の家を探しているんですが、ご存知でしょうか。」
数秒後、僕はおっちゃんから何か「ヤバイ」雰囲気を感じ取った。まず、ものすごく酒臭い。そして、身なりも汚ない。ハンマーを持っている。雨の中、傘もさしてない。

「おお、道に迷ってるんだな。俺がガイドになってやるよ。」
そして妙に親切。これぞ、まさに「怪しい人」。

全身がエマージェンシー・モードになる。逃げようか。いや、突然の逃走はむやみに相手を刺激するだけだ。ピストルでも発射されたらたまったもんじゃない。これまでに無い身体的、精神的疲労の中、苦し紛れの判断を下す。いまは穏やかにしていよう。

「どこから来たんだ?おお、日本か。何しに来たんだ?くそ、寒いな。それで......どこから来たんだ?おお、日本か。日本のどこだ?えぇと、お前は何番の家を探してるんだ?」
この人、まともじゃない。アルコールが原因か、はたまた別の理由か。とにかく、いくらかお金は取られても構わない。命だけは助けて欲しい。
「それで、『703』番だったな?」
「違います。『603』番です。」
「『603』!おお、『703』だな。」
「いや、『603』です。」
「そうか、『703』はこっちだ。ついて来い。」
「.........はい。」

ステップ1、まずはこの人から離れること。
ステップ2、一呼吸ついて、もう一度冷静になってから『603』番の家を探すこと。

もうすでに雨の中1時間30分ほど歩いている。疲労困憊のなか、必死の思いで状況を整理する。

「それで......お前はどこから来たんだ?おお、日本か。ここでなにするんだ?アメリカは何度目だ?」
「すみません、ありがとうございます。なんとか自分で探せそうです。」
「どうした?俺が連れて行ってやるよ。『703』だろ?こっちだよ。」
「いや、大丈夫です!雨が降ってるんで、風邪をひかないように気をつけてください!それじゃ、良い一日を!」
ごちゃごちゃっとその場を後にする。こういう時は、勢いが大切。おっちゃんのハンマーのリーチから離れた後で、後ろをチラチラっと確認する。よし!たぶんピストルは持ってない。

近くにあった屋根の下で、エマージェンシー・モードを解除する。