カルチェラタン
......寒い!
さすが北の街ポートランド、朝はかなり冷え込む。
加えてカウチで夜を明かしたためか、身体の節々が痛む。
クシュン!
くしゃみが止まらない。鼻水が垂れる。......2匹の猫のせいだ。朝から元気に僕のテリトリーに侵入してくる。厄介なやつらだ。昔から犬、猫アレルギーで、彼らのそばにしばらくいるだけで、くしゃみ、鼻水、そして目の充血に悩まされる。それでいてなかなか彼らを憎むことができない。
早くこの家を出ることが吉。
そう判断した僕は、急いで身支度をすすめる。問題は、サウス・ポートランドというこの片田舎で何をしようかということ。ダウンタウンに行けばポートランドの歴史博物館や美術館、歓楽街があるんだけれども、バスを乗り継がなくてはならない。
Googleマップをグルグルいじくる。
「何か出てこい、何か出てこい、.........!?」
少し遠くに見つけたのは、「フォート・ウィリアムズ・パーク」。大きな公園、そして公園内には「ポートランド・ヘッド・ライト」と名付けられた灯台がある。
でもちょっと待てよ......アメリカのデカイ公園に一人で行って、いったい何をすれば良いんだ?いや、何はともあれこの家にいる2匹の猫から離れなくては、体調でも崩しそうな気分である。出際にメルセデスに尋ねる。
「ここって歩いて行けるかな?」
「全然大丈夫よ、あなた若いんだから!だいたい1時間強ね。」
決定。家を飛び出る。
快晴。
朝のポートランドの新鮮な空気を目一杯吸い込む。日が昇ると、北海道と同じ緯度の街とはいえほのかに暖かい。9月の中旬ではあるが、半袖でもいける。
ポートランドの美しい空に部屋でのストレスを全て吸い込んでもらったところで、目的地フォート・ウィリアムズ・パークへと向かう。
ショアロード、フォート・ウィリアムズ・パークに向かう途中で(2014/9/12)
これから1時間、一人海岸線を舐めるようにして歩いていく。ポートランドはその名前からも推測できるように、海辺の街である。歩きつつ左に目を向けると、家々の合間から美しい海が顔を出す。舞台はまるでジブリ映画「コクリコ坂から」。この映画、筋立てが意味不明だっただけに、海辺の街の風景や雰囲気ばかりが印象に残っている。
たまにはこんな映画があったっていいのかもしれない。当たり前のことを言うが、ジブリ映画の良いところは、絵がハンパないところ。ストーリーがイケてなくても、楽しみようがある。「もののけ姫」や「天空の城ラピュタ」を見るたびに、宮崎駿の天才ぶりを思い知らされる。「あの世界に入り込んだっきりそのままそこへ閉じ込められたい」と何度思ったことか。
気がつけばもう、目的地「フォート・ウィリアムズ・パーク」。
フォート・ウィリアムズ・パーク(2014/9/12)
素晴らしい天気に、素晴らしい光景。こんな時、アメリカ人はよくこうやりとりをする。
「美しい日ですね。( It's a beautiful day.) 」
「ええ。( It is.) 」
ミシュランガイドで言えば星三つ。「ここを訪れるために旅行を計画する価値のある場所」。
時刻はまだお昼前。広大な公園を、あてもなくブラブラする。すると小さなビーチを発見。近くでは、とある家族が3世代揃ってランチを楽しんでいた。
「ちょっと!そこのあなた!」
駐車場の方から声がする。エスニックな格好をしたおばちゃんが、車の側で僕を呼んでいる。
ジェスチャーで、「僕のこと?」と聞き返す。どうやら僕で、間違いないようだ。
僕を呼ぶおばちゃんからは、ちょっぴり普通でない雰囲気を感じ取ったものの、一人でいる寂しさも手伝ってか、呼ばれるままに向かう。(よく青少年がさらわれたりするのは、こういった心理的作用もあるのだろうか。)
「あなた、どこから来たの?あら、日本なのね。どう、美しい景色でしょ?」
よく見ると裸足だ。服も汚ない。そのまま延々と喋り続けられ、気がついたら話題はおばちゃんがぶら下げているペンダントに移っている。
「これはエジプトでもらったんだけどね......」
このまま得体の知れないアクセサリーを高値で売りつけられるのだろう、日本でもよくある展開だ。
......と思っていたら、そのまま話は終わってしまった。
「あなたの眼は輝いているわ。何か不思議なパワーを感じたから声をかけてみたの。最後に、ハグをしてもいいかしら?」
......嫌だ。
とは言えなかった。
そのままおばちゃんにギュッとされて、その場を後にする。
ポートランドで有名な「ロブスター・ロール」を食べて帰る。ロブスターを挟んだサンドウィッチに1500円も払わされたのにはビックリした。京都でもそうだが、こういった観光地プライスが旅のテンションを下げてくれる(でも味は素晴らしかった!)。
帰り道、向こうから自転車で爆走してくる人をよく見ると、それは偶然にもカイルだった。
カイル;「どこへ行ってたの?僕は今からまたレストランでアルバイトさ。こんなにも美しい金曜日なのに。」
僕;「明日の朝早くにはもう家を出るんだ。昨日はいろいろと街を紹介してくれてありがとう。」
カイル;「もう出発するのかい!?次の街はどこなの?とにかく、この先のXX(僕)の安全な旅を祈るばかりだよ。」
カイルの1.4倍速の英語をほとんど聞き取ることができなかったが、それでもカイルの優しさは充分に伝わった。
息をのむ光景に、よく分からない不思議な体験、こうして僕のポートランドでの短い滞在は幕を閉じる。